【公演レポート】東京バレエ団×京都市交響楽団 バレエ「くるみ割り人形」<全幕>

東京バレエ団ではこれまでレパートリーとして、1961年に初演したワイノーネン版を基とした「くるみ割り人形」の上演を長く続けていたが、バレエ団創立55周年を迎えた2019年の記念事業として同作品を一新。芸術監督の斎藤友佳理がイワノフ版、ワイノーネン版を基調に改訂演出を施した。

(写真)第1幕1場より 

©️井上写真事務所 井上 嘉和


 演出の特徴としては舞台転換を含めて、場面展開をスピーディーにした点だ。これは現代の舞台機構の発展を活かしたかたちであろう。「くるみ割り人形」(イワノフ版)が初演された1892年のソビエト連邦と2019年の日本とでは舞台技術が可能とする範囲に大きな差がある。バックドロップ(舞台背景)、大道具の転換などを職人の手で全て行っていた時代と比べると、背景幕一つをとっても、機械を使い変更にかかる時間は短くなった。

 くるみ割り人形のように、音楽と演出が対として創られた作品はその性質上、作品音楽の流れを無視して演出することはできないが、しかし上演される時代に合わせ演出を変えるべきであると筆者は考える。その時代の時間に対する感覚に合わせた展開や流れ、また最新技術を活かした演出によって、古典作品はより面白くなるはずだ。

(写真)第1幕2場より

©️井上写真事務所 井上 嘉和


 タクトを取った井田勝大と京都市交響楽団が奏でる華やかでバレエ作品にふさわしいテンポによる演奏で序曲が始まると、観客は物語の世界に自然に入って行く。ロームシアター京都での公演ではマーシャ役は川島麻美子、そのパートナーのくるみ割り人形役は柄本弾が務めた。川島のマーシャは第1幕では大人びてしっとりしたマーシャを演じた。周囲の子役と比べるとその雰囲気に大きな差があり、一人成長の早い子供がパーティーの輪にいるような印象を残したが、第2幕のグラン・パ・ド・ドゥでは金平糖の精らしく威風堂々、華やかな演技を披露した。今回はパートナーを務めた柄本の出身地、京都での公演ということもあり多くのファンが劇場に詰め掛けたようだ。柄本が舞台に立つと、ダンサーとして伸び盛りの柄本の演技から目を離すまい、と観客からの温かい応援に会場が包まれた。

(写真)第1幕5場「雪の国ー旅のはじまり」より

©️井上写真事務所 井上 嘉和


 第2幕の各国の踊りではダンサーがクリスマス・ツリーの飾りさながら、ツリーが描かれるバックドロップの窓からマーシャに笑顔を送る。舞台に降り立つときは魔法のようにするりと舞台中央の出入り口から登場し、その国の民族舞踊を思わせるダンスを披露する。幼心をくすぐる、これまでありそうでなかった演出に斎藤友佳理の演出家としての瑞々しい感性を感じた。

 作品全体を通してのきめ細やかでスピーディーな場面展開が溢れる演出に、今後子供から大人まで愛される作品として、また年末年始の風物詩の作品として今後も長く愛される作品になるであろう。

(写真)第2幕2場「花のワルツ」より 

©️井上写真事務所 井上 嘉和


【主な配役】

マーシャ:川島麻実子

くるみ割り人形:柄本弾

ドロッセルマイヤー:森川茉央

ねずみの王様:杉山優一

スペイン:伝田陽美、宮川新大

アラビア:三雲友里加、ブラウリオ・アルバレス

中国:岸本夏未、岡崎隼也

ロシア:加藤くるみ、池本祥真、昂師吏功

フランス:中川美雪、工桃子、樋口祐輝


【公演概要】

日程:2019年12月22日 14:00開演

会場:ロームシアター京都 メインホール

芸術監督、改訂演出:斎藤友佳理

指揮:井田勝大 

演奏:京都市交響楽団

舞台美術:アンドレイ・ボイテンコ

主催:ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)、京都市

共催:日東薬品工業株式会社

制作:公益財団法人日本舞台芸術振興会


【バレエ団情報】

東京バレエ団:https://thetokyoballet.com/

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