【公演レポート】地主薫バレエ団「眠れる森の美女」

創立30周年を迎えた地主薫バレエ団が、ボストンバレエ団より倉永美沙(オーロラ姫)、新国立劇場バレエ団より奥村康祐(デジレ王子)、ボリショイ劇場バレエ団よりアレクサンドル・スモリャニノフ(カラボス)とアレクサンドル・ファジェーチェフ(フロレスタン王)を迎え、マリウス・プティパ原振付・地主薫改訂振付版のバレエ「眠れる森の美女」を上演しました。

今公演は「眠れる森の美女」という大変有名なバレエ作品の世界観を余すところなく十分に創り上げました。そもそもこの作品の上演のためには豪華絢爛な衣装、舞台美術、実力を備えたダンサーの起用が必要になります。観客がそれを期待するのです。1921年にロシア人プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフはバレエ・リュスで独自の「眠れる森の美女」を上演しましたが、あまりに豪華な舞台セットや衣装のためバレエ団は破産同然になった、というエピソードが残っています。それほどこの作品の上演のために主催者は策を練り、数々の難関に立ち向かうのです。

 そのような作品を観たいという観客の要望に応えるように、地主薫バレエ団は眩いばかりの舞台美術と衣装を用意しました。パリ・オペラ座バレエ学校の設立者であるフランス王ルイ14世の時代の服飾を想像させる豪華な衣装は、お伽の世界に酔いたいという観客の想いを十分に満たしました。物語の時間の流れを考えて、オーロラ姫が眠りについた100年後という設定である第2幕では、装飾が少し落ち着いた近代的なスタイルに衣装がみられました。この時代背景を考慮した衣装を起用したことにより作品の価値感が深まりました。

 改定振付をした地主薫は、同バレエ団出身で世界的な活躍をみせる倉永美沙と奥村康祐にそれぞれ主要な役どころを託し、ボリショイ劇場バレエ団のスモリュ二ノフとファジェ―チェフの実力派2名で脇を固めました。この4名の駆け引きは勧善懲悪と光と闇の対立を浮かび上がらせ、作品に面白みを添えました。

 倉永美沙にとっては出身バレエ団への「おかえり公演」になりましたが、長年の指導者への感謝の気持ちを捧げるように、舞台上で一時も気を抜かない一途な姿が印象的でした。奥村康祐のデジレ王子といえば、お伽の世界から出てきた王子そのもの。王子を演じる彼の姿は、女性なら誰しもが少女のころに憧れたであろう、勇敢で優しく甘い言葉で姫に語りかける理想の王子を思わせます。第3幕の難しいグラン・パ・ド・ドゥでも、ステップの難しさにとらわれず常に甘い王子を演じます。倉永と奥村双方とも、確固たる実力と華を備えたダンサーであるからこそのテクニックと表現がみられました。目を引いたという点では、2幕の「花のワルツ」も圧巻の完成度でした。男女50名近いコール・ド・バレエのダンサーが華やかに舞台を彩る様は観客を幻想の世界に誘うのに十分でした。


【公演情報】

日程:2018年11月12日

会場:フェスティバルホール

芸術監督:地主薫

指揮:井田勝大

演奏:びわこの風オーケストラ

キャスト:オーロラ姫 倉永美沙

     デジレ王子 奥村康祐

     リラの精  奥村唯

     カラボス  アレクサンドル・スモリャニノフ

     

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