【トークイベント】ピーター・ヤコブソン×ロームシアター京都

ロレーヌ国立バレエ団の来日公演最終日、ロームシアター京都では公演後にアフタートークイベントが行われました。ピーター・ヤコブソン氏(国立振付センター・ロレーヌバレエ団芸術監督)、トーマス・ケイリー氏(ロレーヌ国立バレエ団、リハーサル・マスター)、橋本裕介氏(ロームシアター、プログラム・ディレクター)によるトークイベントでは、バレエ団の在り方、バレエ団がどのように上演作品を選ぶか、またオーディションの際にどのようにダンサーを選ぶかなどが話題にあがりました。

写真:左より橋本裕介氏、ピーター・ヤコブソン氏、通訳、トーマス・ケイリー氏


●上演作品について

橋本:フランスでは1970年代より地方分権化を進める文化政策として、全国各地に国立の演劇とダンスそれぞれのための文化センターが作られるようになり(演劇:Centre dramatique nationalおよびScène nationale、ダンス:Centre chorégraphique national)、現在では演劇の国立振付センターは19か所あります。ピーター・ヤコブソンさんはナンシーに拠点を持つ国立振付センターに属する、ロレーヌ国立バレエ団で芸術監督をされています。今来日公演では「DEVOTED」、「STEPTEXT」、「SOUNDDANCE」の三作品が上演されましたが、芸術監督としてこの「トリプルビル」(短い3作品を一つの企画で上演する方法)の上演演目についてどのようにお考えですか?

ヤコブソン:今回は三作品とも歴史的な(創られた時期が異なる)作品を上演しました。この企画をすることで今現在の世界はどうなっているのか。またこれから未来がどのようになっていくのか、を問うプログラムとなっています。また三作品共に身体的にクラシック・バレエに結び付く共通性があります。「DEVOTED」はポワント(トゥシューズ)を現代風に表現した作品。「STEPTEXT」の振付はバレエの動きに近いです。(ジョージ)バランシンのような作品スタイルかもしれません。 「SOUNDDANCE」は音楽と体の動きが別々の役割をする作品です。動き方はバレエではありませんが、バレエに通じるものがあります。ですがステップや作品の見せ方はバレエの対極にあるように感じます。」

ケイリー:三作品とも既成概念を打ち破る、という点では共通していると思います。 「DEVOTED」はしっかりと構成された作品です。ですが舞台上でダンサーが声を発したり、と(通常のダンス作品の)枠にはまらない部分が面白いと思います。「STEPTEXT」は脱構築の要素があると思います。いつ作品が始まるのか、リハーサルと本番の違いとは何か、クラシックバレエとは何かを私たちに問いかける作品です。(この作品では、通常は作品が始まるまでに消される客席ライトをつけたままで、無音の中ダンサーが舞台上に現れ突如動きだします。予想外の始まり方に、作品の開始に気が付かずに冒頭の部分を見逃す観客の姿も見られました)。「SOUNDDANCE」は18分30秒の”カオス”を表現していると思います。


●バレエ団の在り方について

橋本:私たちロームシアター京都ではレパートリー(1シーズン中に上演する演目のこと。また上演団体がシーズンを問わず継続して上演し続ける作品演目を指すこともある)の充実を目指しています。ロレーヌバレエ団では毎シーズン(毎年)上演する演目をどのように選んでおられますか。

ヤコブソン:私たちが一番大切にしている事は創造することです。レパートリーを選ぶ際はシーズンごとにテーマを決めています。例えば一年目は「バレエは女性的でダンスが男性的なのか」という点について考えました。フランス語で「バレエ」は女性名詞、「ダンス」は男性名詞です。そこから始まったテーマで、実際には女性の振付家の作品を積極的に上演しました。2年目は「テタテタテ」というフランス語の「会話、出会う」という意味の言葉をテーマに様々な作品を上演しました。

   私は以前、「あなたはどんな振付家が好きですか」と聞かれたことがありました。ですが私にとってはどんな振付家が好きか、というよりも今何が起こっているかの方が大切です。今その時代をどのように表現できるか、そのためには誰と仕事をすればその目的を達成できるか、を考えています。

ケイリー:そうですね、毎年のテーマ以外で大切にしていることは「Break the rules」です。先ほども申しました通り「既成概念を壊す」という事です。


オーディションでのダンサーの選び方について

橋本:「オーディションをする際はどのようなダンサーを選んでいますか」

ヤコブソン:「バレエ団でダンサーはいつも出入りがあります。ダンサーが抜けたり、新しいダンサーを迎えるたびに、バレエ団の雰囲気は変わります。ダンサーが抜けて欠員が出る時は同じタイプのダンサーを入れるのではなく、その時のダンスグループがもっと面白くなるためにはどうすればよいか、と考えています。

ケイリー:「私たちは毎年1月と11月にオーディションを行っています。その際はクラシック・バレエ、コンテンポラリー・ダンスの両方に加え、インプロヴィゼーション(即興で踊りを創り披露する)のクラスも行います。これを行う目的は、そのダンサーの人なりや思考を探るためです。カンパニーに染まるダンサーではなく、ダンサー自身にどんな個性があるのか、を見ています。」


これから秋から冬にかけては、海外で就職を希望するバレエ・ダンサーにとってはオーディション・シーズンです。この厳しい就職活動期間をどう活かすかは、それは各ダンサー次第。だからこそダンサーを選ぶ責任ある立場としてのヤコブソンさんの意見は若いダンサーにはきっと勉強になったことでしょう。コンテンポラリー・バレエ団を中心にオーディション周りをするダンサーの方は、何が自分の個性(強味)になるかとじっくりと考える、そんな良い機会になるのかもしれません。


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