【トークイベント】木田真理子×芳賀直子

ダンサーの木田真理子さんと舞踊史研究家の芳賀直子さんによるトーク・イベントが9月2日、京都のロームシアター京都にて行われた。マッツ・エック振付「ロミオとジュリエット」のジュリエット役が認められ2017年度のブノワ賞を受賞した木田と、バレエ研究の第一人者である芳賀がコンテンポラリー・バレエの魅力を語った。

●コンテンポラリーバレエについて

芳賀「例えばコンテンポラリー・ダンス、コンテンポラリー・バレエ、モダン・ダンス、モダン・バレエ、ヌーヴェル・ダンスなど、ジャンルとして様々な呼び方がありますが、意図することは新しいダンスということ。これらの呼び方の違いについて、一体何が違うのか…と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。モダン・ダンスは20世紀に入ってからアンチ・バレエの目線で生まれたとされていますが、コンテンポラリー・バレエは反バレエという視点ではなく、もっと新しいことをやってみよう、という想いから生まれたとされているといっても良いと思います。」

木田「日本でコンテンポラリー・ダンスと聞くと分かりづらいかもしれませんが、海外ではバレエよりももっとコンテンポラリー・バレエの方が盛んな国もあります。わたしがカナダに滞在していた時期ですと、例えばカナダの有名なダンス・カンパニーである『ラララ・ヒューマンステップス』(バレエとコンテンポラリー・ダンスを複合させたダンス・スタイルを持つ)などが活動していましたし、お客さんが様々なダンスを受け入れる環境があると、感じました。」

●振付家のスタイルとは?

芳賀「木田さんは多くの世界的に著名な振付家と一緒のお仕事なさいましたが、振付者のスタイルのようなものを感じたことがありますか?例えば、カ二ンガム・メソッド(マース・カニンガム/アメリカ人の振付家。ダンス・スタイルはモダン・ダンスのスタイルに分類される)で踊ったことがありますか?」

木田「実はカニンガムの作品は躍ったことがないのです。ですが、彼の作品を踊ったことのあるダンサーに話を聞くと、上半身と下半身を分けて踊るという特徴があると話してくれました。」

芳賀「それは面白いですね。木田さんが学んでいらっしゃったサンフランシスコ・バレエ・スクールはバランシン・スタイル(ジョージ・バランシン/ロシア人の振付家。クラシック・バレエとモダン・バレエの橋渡しをした人物として有名)だったと思うのですが、バランシン・スタイルについてどう思われましたか?」

木田「バレエ学校に入学の当時はバランシン・スタイルに実は少し戸惑いました。(バランシン・スタイルはネオ・クラシカル・スタイルに分類される。クラシック・バレエのテクニックと少し違いがある)。ジャンプの際に踵を地面に付けないことがあったり、シェネ(一定の方向に回りながら前に進むステップ)の際に進行方向を見ないで、観客のいる方、つまり正面を向きながら回ったり…。と、これまで学んでいたことと違い、最初は戸惑いました。」

芳賀「そうなのですね。ジョージ・バランシンが活躍していたアメリカではその当時、ショー・ビジネスがとても盛んでした。バレエでも同じように、観客に舞台からエネルギーを向けること事に注目していたのかもしれませんね。」

木田「バランシン・スタイルでは、おっしゃる通り正面に向かうエネルギーというものを感じました。」


●コンテンポラリー・バレエの魅力について

芳賀「ダンサーとしてコンテンポラリー・バレエの魅力とは、何だと思われますか?」

木田「そうですね、簡単にいうと身体と空間の関係性でしょうか。作品を見ていて、何故こうなるのか、を観察すると面白いかもしれません。また自分の中に新しい視点を発見することが出来ると思います。例えば、今年9月に来日するロレーヌ国立バレエ団が上演するセシリア・ベンゴレア&フランソワ・シェニョーの『DEVOTED』という作品があります。この作品でダンサーはトゥ・シューズを履いて演技しますが、脚をターン・アウト(バレエの特徴である脚の外旋)しません。この作品をみると、では(バレエを踊る際に)なぜターン・アウトをする必要があるのか、という新しい視点を自分の中に見い出すことが出来ます。」

芳賀「なるほど。コンテンポラリー・バレエの魅力とは、作品を見ることで、観る側の新しい視点を発見出来る事にあるのかもしれませんね。視点の変化を促す事にその面白さがあるのでしょう。」


 日本では、バレエとコンテンポラリー・ダンスの間に大きなギャップがあると感じる人がいるなかで、作品鑑賞の楽しみを増幅させる鍵は「インテリジェンス/Intelligence/」つまり「知性、知識」であるいう二人。つまり踊る側のダンサーの知性と、見る側の観客の知性が、舞台鑑賞の面白みを増幅させるという事だ。これからコンテンポラリー・ダンス作品を鑑賞したいとお考えの方に一言アドバイス。

 事前のちょっとした下調べ(知識の増幅)が作品鑑賞をより豊かなものしてくれる鍵、なのかもしれませんよ。

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