【公演レポート】環バレエ団・環ジュニアバレエ団「初秋のバレエコンサート」2021.10.5

環バレエ団・環ジュニアバレエ団(大阪市)によるバレエ・コンサートが9月20日に大阪メルパルクホールで開催された。プログラムはバレエ団のレパートリーより『7つのジュエリーファンタジー』、『白鳥の湖』第3幕抜粋、そしてサイトウマコトの新作『S』の3部作であった。(四柳育子)

撮影:田中 聡(テス大阪)


 環バレエ団は関西を中心として活躍した舞踊家・振付演出家、環佐希子の作品をレパートリーとして上演しており、本公演で上演された創作バレエ『7つのジュエリーファンタジー』もその一つである。その初演は1997年。20年以上前に創られた作品であるが、時が経っても、踊るダンサーの瑞々しい個性を引き出す作品である。創作メモの一節に「色も硬度も輝きも異なる宝石をバレリーナたちになぞり、ファンタジックに創りあげました」とある。振付に注目すると、踊り手の技量力量に合わせ、明確に区別化されていることが分かる。原石の若手、磨かれ煌めく円熟期のダンサー、永遠の絆を映すダイヤモンド、宝石の王様アレキサンドライトの輝き、と多様な表現者の個性に合わせた演出が面白い。

『7つのジュエリーファンタジー』よりダイヤモンド

撮影:大藤飛鳥(テス大阪)


 環の創作の特徴としてダンサーのダイナミックな配置があるが、本作品では女性1名、男性5名が躍る「ダイヤモンド」にそれが凝縮されていた。古典バレエでは、例えばバレエ『眠れる森の美女』(プティパ版)第1幕のローズアダージオのように女性1名に対し男性4名で踊られる演目、またパ・ド・トロワのように男性1名に対し、女性が2名で踊る形式は確立されている。しかし、環のように女性1名に対しパートナーを5名配置することは珍しく、それゆえに踊り手は非常に高度な技術を要求される。この度の「ダイヤモンド」を演じた福井一菜、岡田兼宜、諏訪原幸治、北村俊介、上村崇人、津村祐樹はそれぞれの技量を存分に発揮し、ダイヤモンドに相応しい輝きを踊りでみせた。

 

 創作作品と対比させ、古典では『白鳥の湖』第3幕(抜粋)を上演した。こちらはプティパ版を原版に改定し、幕開けにピエロを登場させた。ピエロ役の佐々木嶺は、役に独自の解釈を取り入れ、例えば、思い描く花嫁が見つからず、沢山の客人の前で落胆を隠しもせず表す王子(上村崇人)への焦燥感を、宮廷の道化師としての品格を保ちつつもコミカルに表現した。成長が目覚ましい池田由希子は妖艶な魅力を放つ黒鳥オディールとして登場。体の線の細さが気になったが、スタミナがあり一挙手一投足に溌溂としたエネルギーを感じた。特にエポールマンの使い方、科を作り艶かしい体のラインを強調した役作りが印象的に残った。

『白鳥の湖』第3幕より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ

撮影:田中 聡(テス大阪)


 新作上演として注目を集めたのはサイトウマコト振付演出の『S』。サイトウは作品名「S」に様々な想いを込めたという。振付者からの想いに想像を巡らせながら鑑賞すると、「Spring/跳躍」、「Silent/無言の」、「Strong/強健な」、「Spiral/らせん」、「Slip by/(機会が)いつの間にか過ぎ去る」といった言葉が脳裏に浮かぶ。筆者はサイトウの振付は「文学的」と感じるが、本作品もその一つ一つに言葉が乗っているかのようであった。動きに言葉を乗せ繋いでいく様は、作家が執筆する作業と同じである。 

『S』 

撮影:大藤飛鳥(テス大阪)


 音楽はゴジラのテーマ曲(1954年)や市川崑監督の映画『ビルマの竪琴』(1956年)で音楽を担当した伊福部昭が、1961年に作曲した『ピアノとオーケストラのための「リトミカ・オスティーナ―タ」』を使用。サイトウは日本語の韻文のリズムを取り込み、静と動の対比を強調したこの楽曲の世界観を、舞台照明の演出効果も活用し、自身の創作に落とし込んだ。

『S』

 撮影:田中 聡(テス大阪)


作品後半にダイナミックな跳躍を魅せたのは十川大希。若さゆえのエネルギーの爆発と無機質な冷やかさを繰り返し表現し、客席をヒヤリとさせた。それを宥め威圧するかのように舞台に現れたのは作田みどり。舞台中央前で客席に背を向けるように椅子に座り、舞台上のダンサーを静かに傍観する。大きな動きが無く存在だけが目立つ役どころであったが、その背中からただならぬ威厳を感じた。


【バレエ団情報】

530-0035 大阪府大阪市北区同心2丁目13-1 環ビル

TEL 06-6358-0555  

FAX 06-6352-1811

URL: http://tamaki-ballet.com


【公演情報】

公演日:2021年9月20日(祝・月)

会場:大阪メルパルクホール

構成・演出・振付:環佐希子、サイトウマコト(『S』)

舞台監督:藤森秀彦(有限会社ウォーター・マインド)

照明:松井秀平(L・S・P)

音響:敷田秀樹、林亜紀子(ミクサージュ)

装置:日本ステージ

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