振付家・苫野美亜によるダンスの公演が、神戸ファッション美術館オルビスホールで８月10日に開催された。本公演が９企画目。観る毎に洗練される本企画であるが、この度は思考と考察、ダンスが織り成す、独自の世界観に、観客を誘い込む公演となった。上演作品は『十四夜月』、『Mozart à deux』、『mid/point』の３作品。どれも再演を重ね、踊り込み、間合いにまで深い情感を感じられる作品ばかりであった。ここでは特に印象に残った作品を取り上げたい。（四柳育子）
『十四夜月』 写真撮影：植村耕司
Mozart à deux（出演：橋本清香、本木全優） 写真撮影：植村耕司
幕開けは『十四夜月』。客席に脚を踏み入れると、既にステージツアーが始まっており、観客は舞台上を一回りしてから客席に腰を下ろす。緩やかな音楽と、舞台上のダンサーが織り成すゆっくりとしたダンスに触れ、客席で幕開けを心待ちにする。円形のホールは構造上、客席と舞台の距離が近い。この〝もてなし″は、ホール機構をうまく活かした形である。『十四夜月』は４名のダンサー（中村春奈、横山翼、山田琴音、大藤明礼生）と２名の音楽家（石井麻依子、斎木なつめ）による作品である。京都、龍安寺の石庭に置かれる、14個の石に込められた思考が、振付者・苫野の創作の源になった。14という数字は、東洋思想では完全に一歩及ばない、不完全なものと例えられる。スリリングなヴァイオリンの独奏より始まり、ダンサー達の動きは無駄を一切省き、磨きをかけた。不完全から完全を目指す心意気も印象に残った。
『十四夜月』 写真撮影：植村耕司
『mid/point』はダンサーの年齢を基に３パートに分け、相反する事象の中心点を探るというもの。哲学的な思考が組み込まれ、見応えがあった。１パート目の「Inner（A）」は若手のダンサー２名（横山翼、片山夏波）と歌手（REMAH）が出演。横山と片山からは、若さ故の無鉄砲さと溢れるエネルギーを感じた。三者は交わりそうで交わらない、触れそうで触れない。他者を意識することで、自身の存在を認識するアンバランスさ、心の成熟に向かう過程をダンスで示した。
『mid/point』Inner (A) 写真撮影：植村耕司
２パート目の「HYORI」では心身成熟した松岡大、ダンサーの高瀬瑶子、音楽家の坂本弘道が共演。松岡と高瀬は互いに繋がった長い布を身に纏い、二人で一つの存在である。作品は全体的に重力感のある低い動きで進むが、最後は二人を繋ぐ布が外れ、自由になるという流れ。自由とは他からの支配を受けず、自らの意志に従う事に他ならないが、それには責任が伴う。本作では動きの流れとその着地点により、自由と責任の関係を表現した。
『mid/point』HYORI 写真撮影：植村耕司
そして最後の３パート目、70代の作品として発表された「白鳥の歌」では、バレエの専門家である尾本安代が出演。冒頭は舞台全体に広げられた巨大なスカートを身に纏い、上半身の動きで魅せた。中盤はスカートを外し、ダンサーは鏡に映った自身の姿に思いを馳せるなど、時の流れをテーマとした作品。若さと老いがテーマの一つであっただろうが、心身ともに若々しい尾本が演じると、老いのネガティブさを感じない。年齢とは曖昧なもので、主観的にそれをどの様に捉えるかによって、人は実年齢を超えられるようだ。
『mid/point』白鳥の歌 写真撮影：植村耕司
昨今のダンス作品は、テーマの捉え方や表現を難解にしすぎる傾向があるようだ。しかし本公演ではテーマを絞り明確に定め、且つ分かり易い形で表現していた。ダンスや音楽を通し、制作者の意図を観客に届きやすく表現した点に好感を持った。
【公演概要】
公演名：苫尾美亜プロデュース Dance Performance LIVE ♯９
Contemporary Dance Pieces Ⅱ
日程：2023年８月10日（木）13時、17時（２回公演）
会場：神戸ファッション美術館 オルビスホール
企画・制作・プロデュース：苫野美亜
主催：Dance Performance LIVE 制作委員会
後援：コシノヒロコ（ファッションデザイナー、神戸ファッション美術館名誉館長）
公益財団法人 兵庫県芸術文化協会
助成：芸術文化振興基金助成事業
アーツサポート関西
協力：神戸ファッション美術館
【出演】
橋本清香（ウィーン国立バレエ、プリンシパル）
木本全優（ウィーン国立バレエ、プリンシパル）
尾本安代（谷桃子バレエ団、シニアプリンシパル）
中村春奈
松岡 大
高瀬瑶子
横山 翼
片山夏波
大藤明礼生
山田琴音
斎木なつめ（ヴァイオリン）
石井麻依子（ピアノ）
坂本弘道
REMAH
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