【公演レポート】『十四夜月』

新進気鋭の振付家、苫野美亜がプロデュースしたダンス公演「十四夜月」が兵庫県神戸市のオルビスホールにて上演された。公演は「クラシックからポストクラシカルへ」と表し、クラシックのテクニックをベースとした音楽家とダンサーの共演が華々しく繰り広げられ、新作を含む7演目が上演された。特に印象に残った新作2演目についてお伝えしたい。

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©植村耕司


ポスト・クラシカルとは、比較的新しい現代音楽のジャンルであり、「ゆっくりと静かで心地よい音楽」と特徴とされる。ダンスにおいて、ポスト・クラシカルという分野は確立されていないが、マース・カニングハムに代表されるモダン・ダンスや、ポスト・モダンダンスの影響力は現代ダンスに大きな影響を及ぼし、コンテンポラリー・ダンスやコンタクト・インプロヴィゼーションといったジャンルを確立した。この度の公演「十四夜月」は、音楽とコンテンポラリー・ダンスの共演を新しい形で模索し、映像とダンスを融合させるなど、目新しい表現が見て取れた。

十四夜月

©植村耕司

 新作『十四夜月』(振付:苫野美亜)では小倉彩加、横山翼、山田琴音、井上良太の男女2名ずつ、計4名の踊り手と石井麻依子(ピアノ)、斉木なるめ(ヴァイオリン)が共に制作者の意図する想いを劇場空間で表現した。作品はプロローグとして京都の龍安寺をイメージする舞台装置を舞台上に設置し、実際に観客を舞台へと招き、表現者が静かに演じる空間を静観することから始まる。通常のダンス公演とは趣の異なる演出だが、舞台空間に脚を踏み入れることで、作品の世界観に自然に入っていくことが出来た。


十四夜月

©植村耕司


 6つのパートに分けられた作品は、生演奏と録音、ソロダンスとユニゾン、照明効果といった要素を非常に緻密なバランスで調和させた。そのすべてが精妙であり、龍安寺の石庭を目の当たりにして感じる静けさや四季折々の風景を、制作者の感覚を通して舞台上で見ることが出来た。

 もう一つの新作『すべての終わりは新たな始まり』(振付:苫野美亜)では佐藤圭がキャリアを積んだ女性の悩みや葛藤を、激しさをもって表現。美しく聡明な女性が苦悩の表情と共に踊る様は、フェミニズム運動また「ガラスの天井」といった自己の能力と実力がキャリア構築に素直に繋がらない、女性のやるせなさを思わせた。

 2021年11月20日 四柳育子


十四夜月

©植村耕司


この度の公演はオルビスホールという円形ホールでの上演であった。宇宙船内にいるかのような劇場内の雰囲気と、客席と舞台の距離が近かったこともあり、どの作品でもダンサー、音楽家の息遣いまで感じられた。クラシックから発展した芸術は肩肘張らず身近で、私達の日常の中にある小さな美から生まれるものかもしれない。それを紡ぎ、作品としてまとめる振付家、苫野美亜の審美眼と手腕の高さを思った。


【出演】

小倉彩加、横山翼、山田琴音、井上良太

佐藤圭(NBAバレエ団プリンシパル)

竹内みさよバレエアカデミー

斉木なるめ(ヴァイオリン)

石井麻依子(ピアノ)


【公演概要】

公演名:苫野美亜プロデュースDance Performance LIVE#7

    十四夜月

日程:2021年10月31日 13:30開演、17:00開演 (2回公演)

会場:神戸ファッション美術館 オルビスホール

企画・制作・プロデュース:苫野美亜

主催:Dance Performance LIVE制作委員会

後援:コシノヒロコ(ファッションデザイナー、神戸ファッション美術館名誉館長)

   公益財団法人 兵庫県芸術文化協会

助成:公益財団法人 企業メセナ協議会 GBF/芸術・文化による新型コロナウィルス災害支援

   公益財団法人 企業メセナ協議 2021芸術・文化社会創造ファンド

   公益財団法人 神戸文化支援基金

   文化庁「ART for the future!」補助対象事業

協力:神戸ファッション美術館

令和3年度(第76回)文化庁芸術祭参加作品 

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