【公演レポート】環バレエ団、環ジュニアバレエ団「初秋のバレエコンサート」

初秋の風、彩鮮やかに。灰色のコロナ禍を芸術の力で彩ったバレエコンサートが開催された。主催は環バレエ団・環ジュニアバレエ団。クラシックから始まり、モダン、コンテンポラリーと舞踊スタイルで時の流れを刻む作品群に、あっと息をのむ演出。客席は終始、刺激的な興奮の渦に包まれた。

『かぐや姫』振付:環佐希子

撮影:古都栄二(テス大阪)

 ガツンと頭を殴られたかのような衝撃を受けたのは第Ⅲ部の『鞄女』(振付・出演:サイトウマコト)。サロメとヨカナーンの関係から着想を得たという題材は「持ち運ばれる女」という表現に広がり、最終的には奇妙な男女の関係として描かれた。

 はじまりは男が大きな黒い鞄を担ぎながら重々しく舞台に現れる。と、それが突然に動き出し、鞄より女(池田由希子)が生まれる。女の全人生を包むその鞄が重かったか、男は疲労困憊に無表情であるが、対照的に女は幼子の様に純真無垢で無邪気だ。鞄によって男に肉体的にとらえられる女が、実は精神的には男を捉えて離さないという、そんな女と男の滑稽な関係を描いた秀作。

『鞄女』振付:サイトウマコト

撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

 第Ⅱ部は昨年末に世を去った舞踊家、環佐希子の創作作品が上演された。環は1963年の一般渡航が許されない時代に日本人としてパリ留学に留学し研鑽を積んだ。この留学で学んだことが環の舞踊家としての財産なり、その後の活動の励みになったという。

『夕顔』振付:環佐希子 

撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

 今コンサートでは環佐季子の振付演出家としての神髄を作品として紹介した。ヨーロッパとアフリカの境、ジブラルタル海峡で生活を営む男女の物語をスペイン風舞踊で表した『哀愁のジブラルタル』(出演:安藤麻紀、高須佑治)では成熟した男女の生命の情熱を艶やかに表現。モダンなスタイルにて源氏物語を綴った『夕顔』(出演:米田くるみ、河島真之)では日本的な視覚美、奥ゆかしく控えめながらも内に秘めた強い愛のかたちが舞台に広がった。

『哀愁のジブラルタル』振付:環佐希子

撮影:古都栄二(テス大阪)

 男女3組が踊るフラメンコ調の『サクロモンテ』ではジプシーの力強さをフラメンコスタイルで表現。モダンで艶やかな衣装と躍動感のあるダンスに息を呑んだ。かくも様々な舞踊スタイルにて多様の作品を生み出した環の才能には驚きを隠せない。

『サクロモンテ』振付:環佐希子

撮影:古都栄二(テス大阪)

 クラシックバレエでは『「胡桃割り人形」より第3幕~お菓子の国~』が披露され、若いダンサーの溌溂としたエネルギーが舞台から溢れた。表情豊かなクララ(川口りりか)がアラブやトレパックといった各国の踊りを明るく朗らかに繋ぎ、作品の全体的な統一感を出した。金平糖のグラン・パ・ド・ドゥでは長身で美しい金平糖の精(福井一菜)と王子(河島真之)の華やかな演技に心が躍った。

『胡桃割り人形より第3幕~お菓子の国』

撮影:古都栄二(テス大阪)

長きにわたって団長としてバレエ団を支えた環佐希子は、活動拠点と作品という芸術活動の基盤を、そして人脈とダンサーを後世に残した。昨今、コロナ禍に喘ぎ苦心する日本のバレエダンサー達を環はどのように見るだろうか。 在りし日のその人に、そっと問うてみたい。


【バレエ団情報】

530-0035 大阪府大阪市北区同心2丁目13-1 環ビル

TEL 06-6358-0555  FAX 06-6352-1811

URL:http://tamaki-ballet.com


【公演情報】

公演日:2020年9月13日(日)

会場:大阪メルパルクホール

構成・演出・振付:環佐希子、サイトウマコト(『鞄女』、『恐怖と荘厳』)

舞台監督:藤森秀彦(有限会社ウォーター・マインド)

照明:松井秀平(L・S・P)

音響:敷田秀樹、林亜紀子(ミクサージュ)

装置:日本ステージ

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